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石川県とふぐ

ふぐ好きの石川県人

人とふぐの関わりは古く、古代エジプトの古墳壁画から「ふぐ」のレリーフが見つかっています。また、秦の始皇帝時代の書物『山海経』にもふぐについての記述があります。なかでも日本人とふぐの関係は深く、縄文時代の貝塚からふぐの骨が多数出土しており、当時すでに食用にされていたと推測されます。しかし、安土桃山時代、豊臣秀吉は「河豚食用禁止の令」を発令します。朝鮮出兵の際、九州に集められた武士たちがふぐを食べ、たくさんの人が中毒死したことが原因です。徳川幕府の時代になっても、この禁止令は引き継がれ、厳しく取り締まられたと言います。この禁止令が解かれたのは明治時代になってからのこと。時の総理大臣伊藤博文が下関で河豚を食べ、そのおいしさに感動し、山口県に限りふぐ食を解禁します。
しかし、実は江戸時代でも庶民の間ではひそかにふぐ食が続けられていました。「あら何ともなやきのふは過ぎて河豚汁」(松尾芭蕉)、「五十にて鰒(ふぐ)の味を知る夜かな」(小林一茶)の俳句や「ふぐ食う無分別食わぬ無分別」「ふぐは食いたし命は惜しし」などのことわざもあり、ふぐの美味しさが浸透していたことがうかがわれます。
そんな中でも、石川県人は特にふぐ好きだと言えるかもしれません。庶民のみならず、武士の間でもふぐ食は行われていたようです。エピソードをいくつかご紹介しましょう。

■加賀藩江戸屋敷跡から出土したふぐの骨
加賀藩江戸屋敷跡から出土したふぐの骨/発掘風景画像
1983年から東京大学本郷キャンパスでは発掘調査が続けられています。ここは江戸時代に加賀藩の江戸屋敷があった場所です。調査では、陶器などの破片のほか、たくさんの魚の骨が出土しています。イワシ、サバ、ブリ、タラなど今も石川県で親しまれている魚の骨に混じって、ふぐの骨も出ています。このことから、ここに暮らした加賀藩士たちが食べていたと推測されます。また、ブリやタラは太平洋側ではあまり水揚げされない魚です。国元で獲れた魚をなんらかの方法で加工して江戸まで運んだのではないかと考えられます。

■加賀藩士の日記に残る「ふぐの糠漬け」
加賀藩士の日記
金沢市立玉川図書館近世資料館に、加賀藩江戸屋敷に住んでいた武士の日記の一部が残されています。日付はわかるものの、いつの時代にどのような人物が書いたかはわかっていません。その中に「ふぐの糠漬け」のことが出てきます。

「九日気色よし (中略)夜食鯛薄わ大根 藤田へ家範を使すやる 酒壱樽鰒(ふぐ)のすじ送る 五頃休」

(大意:9日 天気良し。(中略) 夜食は鯛と大根。藤田家へ(家来の)家範を使いにやる。酒1樽と「ふぐのすじ」を送る。夜8時頃休む)


ここに書かれる「鰒のすじ」とはふぐの身の糠漬けのこと。金沢では今もふぐの糠漬けを「ふぐのすじ」と呼ぶことが多いようです。江戸時代のいつとは限定できませんが、ふぐの糠漬けがつくられていたことがわかります。

■北前船で運ばれていた「ふぐの卵巣」
加越能湊々高数等取調書画像
加越能諸湊家人数等取調書画像
江戸時代中期から明治時代にかけて日本海の海運をになったのが北前船です。大阪から瀬戸内海を抜け、山陰、北陸、東北を通って北海道まで、港々でさまざまな荷物を積み降ろししていました。金沢市立玉川図書館近世資料館に、安政5年(1858年)、北前船が当時の本吉港(現在の白山市美川地区)で降ろした荷物の記録「加越能湊々高数等取調書」「加越能諸湊家数人数等調」が残されています。そこには

  佐渡国より干鰒(ほしふぐ)

  佐渡、御国(おんこく)より鰒ノ子(ふぐのこ)


という記述があります。「鰒ノ子」とはまさしく「ふぐの卵巣」のこと。ほかの港には「鰒ノ子」の記述はなく、本吉港(美川)だけに降ろされています。御国とは同じ加賀藩の輪島港と思われます。このふぐの卵巣は何に使われていたのでしょうか。この記録からだけではまったくわかりません。しかし、ふぐの卵巣が積まれた港が佐渡と輪島、降ろされた港は美川。いずれもふぐの卵巣を食べる習慣が現在も残っている地域です。いろいろな想像を働かせたくなる記録です。
北前船の航路とおもな寄港地マップ

■現代でもふぐの水揚げは国内有数
日本国内の天然ふぐのおもな漁場は東シナ海、日本海、瀬戸内海周辺と千葉県以南の太平洋沿岸です。生産量(漁獲量)は年度によって大きな差がありますが、平成23年度は全国で海面漁業の部6,286トン/海面養殖の部3,724トンの漁獲量があり、石川県は海面漁業の部1,025トンで、全国第1位の漁獲高です。数字で見れば、石川県人は今も変わりなくふぐ好きのようです。
(参考資料/平成23年漁業・養殖業生産統計(平成24年12月) 農林水産省海面漁業生産統計調査より)
(注:東日本大震災の影響により、岩手県、宮城県、福島県においてデータを消失した調査対象があり、消失したデータは含まない数値である。)