「およばれ」にはじまる饗応の精神
海や山野に恵まれ、海の幸・山の幸にことかかない石川にあって、味覚を豊かにしてきたのは、
藩政時代からの風習も大きく影響している。
その風習とは、俗に「およばれ」と言われる饗宴である。祝い事や祭事のときに、客人を自宅
に招いたり、あるいは招かれたりするもので、藩が料理屋に大勢の人が集まるのを嫌ったために
頻繁になったとも言われている。
当時は、一汁一菜、一汁三菜が常であったが、「およばれ」では、一ノ膳に加え二ノ膳が出る
こともあり、そのため、この地の武家や町家では膳や皿といった器を揃え、それが工芸の発達に
寄与した。
また、何かあれば、客を招いてご馳走するもてなしの心が育まれ、その精神が今も連綿と受け
継がれている。石川県は、全国有数の温泉地としても有名だが、「プロが選ぶ日本のホテル・旅
館100選」で21年連続して総合第1位の評価を得る旅館などは、その象徴とも言えるだろう。
食事を楽しむための空間づくり
食を構成する大切な要素として食材や器のほかに、食事を楽しむ雰囲気をつくるものとして庭
も忘れてはならない。
例えば玉泉園(金沢市)は、加賀藩の大小将組頭を務めた脇田家の庭園で、兼六園の樹木を巧
みに借景として取り入れた凝った作庭である。このほか、前田家の家臣たちはそれぞれの屋敷に、
自然の営みの息吹を感じるために庭を作っており、現在でも数多く残されている。加賀藩3代藩主
前田利常も小堀遠州、金森宗和、千宗室らに庭園の設計について教えをうけた。
また、庭木の枝を雪の重みから守る雪吊りも石川の冬の風物詩である。北陸には、北海道や東
北に比べて水分が多く、重い雪が降るために考え出されたものだが、幾何学模様の美しさは庭の
アクセントになるほか、漆器などの絵柄のモチーフともなっている。
もちろん、庭は食事を楽しむためだけに作られたものではない。しかし、庭を愛でながらの食
事は、料理を一層おいしく感じさせてくれるものだ。今日、多くの料亭や旅館で、そのような楽
しみを満喫できるのも、藩政期以後、熱心に庭作りが行われた金沢の都市基盤があったからにほ
かならない。
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